『日本語の作文技術』について

お勉強系
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私は翻訳者として、「日本人が読んでわかりやすい日本語」をかなり意識しています。私は中国語ネイティブではありません。中国語の読解力はネイティブやバイリンガルと呼ばれる方たちに劣るでしょう。しかし日本人として、日本語文章のわかりやすさにおいては他の翻訳者には負けたくないのです。そこで今回は、文章を書くときに参考にしている本多勝一著『<新版>日本語の作文技術』(2015年、朝日新聞出版)という本についてご紹介し、私が最も印象を受けた「テンのうち方」について書きたいと思います。

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テンの二大原則

これを初めて読んだときは呆気にとられました。しばらくしてちょっと忘れた頃にまた読んだときも、同じような衝撃を受けてしまいました。それまでは文章を書く際、「何か決まったテンの打ち方ないのかな」とずーっと思っていました。この本を読んでやっとその答えが見つかったと言えます。これによると、

第一原則 長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンをうつ。

第二原則 原則的語順が逆順の場合にテンをうつ。

たったこれだけでいいのです(もう一つ「筆者の考えをテンにたくす場合として、思想の最小単位を示す自由なテンがある」としています)。逆に上述した二大原則以外の「重要でないテンはうつべきではない」とかなり力強く解説しています。なぜなら「他の重要なテンとの区別がつかなくなる」からです。

第一原則

例文を作ってみることにします。犬が好きなので、「犬」に長い修飾語を加えてみます。「キャバリアとトイプードルのミックスの犬」「口周りの毛が10センチほどの犬」「体重が5キロを超える犬」を一つにまとめてつなげてみましょう。テンをうたずにつなげると、

・キャバリアとトイプードルのミックスの口周りの毛が10センチほどの体重が5キロを超える犬

となります。とても読みづらいです。それでは第一原則に従って「長い修飾語が二つ以上あるとき、その境界にテンをうつ。」をやってみます。

・キャバリアとトイプードルのミックスの、口周りの毛が10センチほどの、体重が5キロを超える犬

これで大分読みやすくなりました。

第二原則

また例を考えてみました。

・私の家の向かいに住む田中さん家のドーベルマンが私の娘に噛みついたと彼女が私に言った。

この本では「テンの二大原則」より前に「修飾の順序」について書かれています。それによると、この上の例は修飾の順序が正しい文章です。なのでテンをうつ必要はありません。ではもし「強調するために“彼女が”を前に持ってきたい」と考えたとします。テンがないと、

・彼女が私の家の向かいに住む田中さん家のドーベルマンが私の娘に噛みついたと私に言った。

よくわからない文章になってしまいました。そこで第二原則に従ってテンをうちましょう。

・彼女が、私の家の向かいに住む田中さん家のドーベルマンが私の娘に噛みついたと私に言った。

本来は「彼女が私に言った」とすべきところを「彼女が」を前にもってきくることで「逆順」となっています。そのためテンをうつことでわかりやすくなりました。

まとめ

私の例文があまり良くないせいでわかりにくかったかもしれませんが…… たったこれだけでいいのです。むしろ「必要なテン」を侵害してしまうため、「無用なテン」をうってはいけません。非常に単純明快でわかりやすい内容です。テン以外にも「修飾の順序」など非常に勉強になる技術が書かれています。

私にとってこの本はバイブルでして、数カ月に1回読み返しています。特にテンに関しては、これまで「なんとなく」「リズム的に」という曖昧な理由でうってきました。しかし、この本を読んでからはテンの一つひとつにまでこだわるようになりました。なので取引先に「なぜここにテンをうったのですか?」と聞かれてもすべて答えられます。聞かれないでしょうが……

この本のおかげかどうかはわかりませんが、事実として、それまで勝率の低かった翻訳会社のトライアルが、この本を読んでからは負けなしです。

もし私の文章を読んでわかりにくい個所があれば、遠慮なくおっしゃってくださいね。

【追記】

2019年10月18日、ある会社さんからトライアル不合格の連絡をちゃんといただきました。

2019年10月18日の時点で、この本を読んでからの勝率は6/7ということになりました。

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