『返校』翻訳について

ゲーム
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『返校 -Detention-』というゲームをご存知でしょうか?

台湾のディベロッパー・赤燭遊戲(Red Candle Games)が開発し、2017年1月13日にSteamで配信されたホラーゲームです。2019年9月20日には台湾で映画上映も予定されています。

私は普段、気になるゲームがあれば実況動画を見ながら翻訳の勉強をしています。そこで今回は、翻訳という視点からこのゲームを見ていきたいと思います。

※ここからはゲームに関するネタバレを含みますのでご注意ください。

※あくまで私個人が感じた内容であり、訳者やゲームを否定するつもりは全くございません。

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感想

まずはゲーム自体の感想から。

正直舐めていました。同じアジア人だからでしょうか。怖いと感じるツボが日本人にもハマっているゲームだと思います。欧米のゲームなどでよく見る「ワーッ!」と脅かしてくる感じではなく、映画『貞子』や『仄暗い水の底から』などのような、べったりと背中に張り付いてくるような恐怖といえば伝わるでしょうか。翻訳の勉強のため繁体字版と日本語版両方の実況プレイを見たので、わかっていながらも同じところでビビッてしまいました。特にウェイくんの首を切るシーンでは、2回目見た時は「うぅ~。やめてくれ~」とうめきながら作業を進めることに……

ここからはゲーム内の訳について述べていきたいと思います。

【繁体字版を見る→自分で訳文を考える→日本語版を見る】という手順で勉強を進めました。

素晴らしいと思った訳文

やめてよ!

原文:你不要嚇我啦!

訳文:やめてよ!

原文を直訳すると「驚かさないで!」といった感じになるかと思います。そこを原文に引っ張られずに「やめてよ!」と訳せるのはすごいと思います。私は原文に引っ張れてしまいがちでして…… 実際、お取引をしている会社さんに「もう少し意訳をしてもいい」と言われたことがあります。この点において『返校』の訳は、原文の意味を損なわずに、一方で原文に引っ張られない素晴らしい訳が随所に見られました。

私もああなるのかしら…?

原文:魏忠廷突然就死了…  我也會有生命危險嗎?

訳文:どうしてウェイくんはあんな死に方を… 私もああなるのかしら…?

ここも先ほどと同様に原文に引っ張られていない訳です。私だったら「ウェイくんは突然死んじゃうし… 私にも身の危険が?」と直訳的な感じにしてしまうと思います。

ポエム

原文:

我成了一隻小雲雀。
掠過花叢、
追逐蝴蝶,
連跑帶跳降落你身邊。

訳文:

私は一羽の 小さなヒバリ
可憐な花を かすめ行き
優雅な蝶を追いかけて
愉快な気分で あなたのもとへ

このゲームは後半、レイちゃんの詩がいつくか登場します。年頃の女の子の恋心を、私みたいなおっさんが訳すのは難しい。こういうのを上手に訳せるのはすごいと思います。訳文を見てわかるとおり、リズムもすごくよくないですか? こういった文を上手に訳すにはどういった勉強をすればいいのでしょう? 少女漫画とか読めばいいのかな? 何か良い方法があれば教えてほしいです。

こうしたほうがいいと思った訳文

クランクハンドル

原文:看來需要一根手搖柄。

訳文:クランクハンドルが必要みたいだ。

「手搖柄」という原文を読んだ時に、「ここは“クランク”と訳すかなあ」と自分でも思いましたが、「でもそれだとバイオハザードみたいだなあ。世界観ちょっと崩れるなあ。日本語版はどう訳してるんだろう」と思って日本語版を見たら「クランクハンドルが必要みたいだ。」と訳されていて「やっぱりか……」とちょっと残念に思ってしまいました。私が見ていた実況者さんも「バイオハザードみたいなこと言ってる」と言っていて、ここで世界観が若干崩れてしまうと思います。ではここはどう訳せばいいんだろうと悩んだ挙句「“回すための取っ手”とかでいいんじゃないかな?」という結論に至りました。

ペンダント

原文:玉珮,白鹿的造型 用繩子繫著。

訳文:鹿の形をした翡翠が、赤い紐で結ばれてるペンダント。

この訳文は、文に短さに対して情報量が多く、結局どんなペンダントなのかよくわからないです。

紐で結ばれた白い鹿のペンダント。翡翠で作られてるの。

私だったらこうします。

グオフォン

原文:

ウェイくん――還滿羨慕你,快畢業了。不用再看到白國鋒那張撲克臉。

レイちゃん――白教官? 哇! 你竟敢直呼他的名諱。

訳文:

ウェイくん――もうすぐ卒業ですよね。いいなぁ、毎日グオフォンを見なくてよくなるんだから。

レイちゃん――バイ教官のこと? 私には、そんな呼び方をする勇気はないわ。

私は原文を見いてたため何の違和感もありませんでした。しかし実況者さんが「グオフォン」という単語に対して「なにそれ?」「どういう意味なんやろな?」と言っているのを聞いて、初めて「なるほど。確かにここはわかりにくいな」と思いました。日本語だけを見ると「“グオフォン”って何か中国語で悪口を意味していたりするのかな? どういう意味なんだろうな?」と色々想像してしまう可能性があります。実は「グオフォン」は「バイ教官」の下の名前なんですね。ウェイくんがバイ教官を「教官」も付けずに呼び捨てにしていたことに対してレイちゃんが驚いている場面です。

ウェイくん――もうすぐ卒業ですよね。いいなぁ、毎日バイ・グオフォンを見なくてよくなるんだから。

レイちゃん――バイ教官? 私には、そんな呼び捨てをする勇気はないわ。

とすれば誤解は生じなかったのかなと思います。

カオさん

原文:工友伯伯的房間… 這什麼啊?

訳文:カオさんの部屋。扉にあるのは何だろう?

日本語版には「カオさん」という登場人物がいます。繁体字版だと「工友伯伯」。つまり用務員のおじさんのことです。日本語版には「カオさん」が用務員のおじさんであるという情報が全くないため、終始「カオさんて誰だよ」とツッコミを入れてしまいます。私は名前から「カオリさん」的な女の子を想像してしまいました。ここは「用務員のおじさん」としなかったのは何か理由があるのでしょうか?

息を殺す

原文:一張圖文插畫,裡頭畫著提燈的長人。「若遇鬼差來,不與四目交,燈下勿奔走。見其附身則屏息,待其離去莫驚慌」

訳文:提灯を持った霊の絵。「提灯持ちに出くわしたら、目を背け、じっとしていること。」「どんなに近寄られても慌てずに離れるまで待て」

ここは明らかに訳抜けがあります。しかもこれによってプレイヤーを混乱させてしまう重大なミスです。「屏息」の部分です。「屏息」を辞書で引くと「息を殺す」「息を潜める」などと出ます。日本語訳からは、「目を背け、じっとして」さらに「離れるまで待て」ば問題ないと読み取れます。しかし、実際にはこれだけでは死んでしまいます。なぜなら「息を殺す」ということをしていないからです。このゲームは右クリックで「息を止める」ことができます。提灯持ちが近づいてきたら「目を背け、“息を止め”ながらじっとして、離れるまで待つ」ことをしなければなりません。私が見ていた実況者さんも、説明通りにプレイしたにもかかわらず死んでしまい、「ちゃんとやってたのにい」と言っていました。

また好みの問題かもしれませんが、原文は少し固い言葉遣いとなっている印象を受けます。私だったら雰囲気を出すために日本語もちょっと固くしたいですね。

提灯を持つ背の高い人が描かれた挿絵。「魑魅魍魎に出くわしても目を合わすなかれ。明かりの下で決して動くなかれ。こやつのそばでは息を殺し、通り過ぎるのを待たれよ」

こんな感じの訳はいかがでしょうか。

まだまだ書きたいことはたくさんありますが、きりがないのでこの辺でやめにしておきます。

もし「もっとこういう訳の方がいいんじゃないですか?」とか「その訳おかしくないですか?」などございましたら、「コメント」や「お問い合わせ」から遠慮なく連絡ください。

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